列車に乗った君たちはいいが、残された家族は? [僕たちは希望という名の列車に乗った]

2018年 ドイツ

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あらすじ

 第二次世界大戦後、ドイツはソ連と西側諸国とによって東西に分断された。当時はまだベルリンの壁はなかったが、東ベルリンと西ベルリンとの往来は制限されており、特に東から西側への逃亡に対しては厳罰が課されていた。そんな時代の東ドイツの学生達の実話。

 テオとクルトは選抜された優秀な学生が集められた進学クラスの旧友だった。2人とも西側に憧れがあり、祖父の墓参りを口実に西ベルリンに行き映画鑑賞などでその雰囲気を味わっていた。

 クルトの父は東ベルリンの市議会議長で、彼が西へ行くのを嫌っていた。

 テオの父は工場労働者で、労働者階級の家系で初めて進学クラスに選抜された彼に期待を寄せていた。

 2人とも自分が置かれている立場は理解していたものの、若者ゆえに多感な時期だった。そんな彼らがハンガリーで起きた社会主義に対する反対運動(ハンガリー蜂起)にただならぬ感心を持ったことは不思議ではなかった。2人は旧友のパウルに頼み込んで、彼の祖父の家で西側のラジオ放送を聴かせてもらい、ハンガリー蜂起に加わった多くの市民がソ連軍によって殺害されたことを知った。

 翌日、2人は級友達にハンガリーの同胞に対して黙祷を捧げようと提案した。授業開始後、その提案に賛同したクラスメート達が教師の問いかけを無視し沈黙し続けた。そのときはまだ、その行為が自分たちの運命を大きく変えることになるとまでは誰も予想していなかった。

 東ドイツの将来を担う進学クラスの学生の反体制的行為は、国民教育大臣の逆鱗に触れた。大臣は”反革命”の首謀者を突き止めるよう厳命し、徹底的な調査が始まった。最初のうちはなんとか言い逃れできると考えていた2人だったが、当局の追及に追い詰められていった。

 ついに逃れることができないと悟ったクルトは西ベルリンへ逃亡した。

 クルトの逃亡により、今回の”反革命”の首謀者は彼だったということにして、当局は幕引きを図ることにした。当局にしても、優秀な学生を一挙に失うことは避けたかったのだ。しかし、その思惑に反して、テオだけでなくクラスメート全員がクルトに責任を押し付けるのではなく連帯責任をとることを選択した。直ちに進学クラスは閉鎖され全員が退学処分となった。

 学校を出るとテオはクラスメート達に「年末には親戚訪問のために東西の人の流れが多くなり監視も緩くなる。そのときが西に逃亡するチャンスだ。だけど、どうするかは各自が決めるしかない」と語った。

 年の瀬。テオは別れを告げぬまま家族の元を離れ列車に乗った。もう東ドイツに戻ることはできない。もう家族に会うこともできない。自分の乗った列車が”希望”に向かっているのか、”後悔”に向かっているのか、その時の彼に分かるはずもなかった。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 電車に乗ると、多くのクラスメートが同乗していた。テオの予想どおり年末の検問はゆるく、全員が無事に旅立つことができた。
 1956年に4人を除き全員が西ドイツへ脱出し、卒業試験を受けることができた。

感想

 自由を渇望し、目の前の正義を信じてしまい、ときに熟慮なく社会に批判的な態度をとってしまうのは若者あるあるですが、それはまだ両親の庇護下にあって、社会の全貌が見えていないから仕方がないことでしょう。この作品は、そんな若者達に国家権力が容赦無く襲いかかってくる恐怖を描いています。さて、日本の現状はどうでしょうか。思想信条や言論の自由は十分保証されているでしょうか。ネットなどでの発言が炎上することが日常茶飯事になっていますが、Twitterでのツイートや発言の一部だけ切り取って批判するのはどうかと思うことがあります。そしてそれを率先して行っているのが、ことさら”言論の自由”の保障を声高に訴えるマスコミだったりするのがどうも腑に落ちないところです。それは私が「報道機関=社会の公器」という昔の刷り込みを脱却できないからそんなふうに考えてしまうだけかもしれませんね。最近の若者達は、そんな既成概念にとらわれず、真実を見極める目を持っていることを期待しています。

 閑話休題。この作品の登場人物達のその後はラストに字幕で明かされます。しかし、私が気になったのは、東ドイツに残された彼らの家族のその後の方です。市議会議長であったクルトの父親は失職したでしょうし、テオの兄弟達は反逆者の兄弟ということで決して重用されることはなかったでしょう。映画であれ小説であれ、物語はどこかに焦点を合わせざるをえませんが、現実にはそれ以外にも語られるべき人間模様があるということを再認識させられました。

 シナリオがしっかりしていて、演出も手堅く鑑賞しやすい作品でした。国家権力に定義された「正義」に従うことを強いられる息苦しさを感じることができる良作です。

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