なんとなく大丈夫な気がする。だって私だから。 [5時から7時までのクレオ]

1962年 フランス、イタリア

コンテンツ

あらすじ

 売れっ子歌手のクレオは憂鬱だった。腹部の具合が悪く2日前に血液検査を受けていたのだが、彼女は自分がガンではないかと不安だった。夜、主治医に電話で結果を聞くことになっていたが、死ぬのではないかという不吉な予感と大したことではないのではという淡い期待との間で心が揺れ動いていた。帽子屋でショッピングを楽しんでいるうちは少し気が晴れたが、それも束の間、また悲観的な考えがむくむくと湧いてくるのだった。多忙を理由になかなか会いにきてくれない恋人にも、お抱えの作詞家や作曲家にも悩みを打ち明ける気にはなれず、ひとり思い悩んでいた。

 気晴らしに友人のドロテに会いに行った。ドロテに包み隠さず悩みを話すことができたクレオはまた少し気を紛らすことができたが、医師に検査結果を聞く時間が近づくにつれて不安が蘇ってきた。

 ドロテと別れて公園を散策しているとアントワヌという名の男が声をかけてきた。最初は胡散臭いナンパだと相手にしなかったが、人好きのするアントワヌにやがて心を許し始めたクレオは、初対面の彼に悩みを打ち明けた。くよくよ悩んでいるよりも早く結果を知るべきだとアントワヌに勧められ、彼の付き添いで夜を待たずに病院へ向かった。すると医師はクレオの不安などお構いなしに彼女との約束も忘れて早々に帰路に着こうとしていた。そして彼女の気持ちなどおもんばかる様子もなく、「ガンだけど、治療すれば治る」とあっさりと告知して立ち去ってしまった。

 不治の病であるガンの宣告を受けたクレオは、しかしそれほど落ち込んでいなかった。その時の彼女といったら、アントワヌとの間に芽生え始めた恋にすっかり夢中になっていたのだ。

クレオとアトワンヌ

感想

 女流監督アニエス・ヴァルダの作品。彼女は「ヌーベルバーグの祖母」と呼ばれているとのことです。「ヌーベルバーグ」とは、

1950年代後半から 1960年代前半にかけてのフランスで,商業映画に束縛されず自由な映画制作を行なった若手グループの映画。「新しい波」の意。

ブリタニカ国際大百科事典

とのことです。今でいえば、自主制作映画に近い感じでしょうか。

 舞台は60年代なので、今よりもガンという病気が死の宣告に等しい時代だったと思います。ので、若く歌手として華やかな人生を謳歌していたクレオが抱いた、ガンになってしまったら一巻の終わりという絶望感は想像に難くありません。しかし人間というものは正常化バイアスが働きがちな生き物です(だから生きていけるのですが)。クレオの心も多分大したことはないだろうと考えようとするのですが、どうしても一抹の不安を消し去ることができません。そんな揺れ動く彼女の心がうまく描かれています。あらすじでは省略していますが、冒頭クレオは占い師のところへ行きます。その占い師の部屋の廊下に順番を待つ客達のシーンを挿入することで人気占い師であることを匂わせるシャレードの効果的な使い方、部屋で歌うクレオの背景がいつの間にか純白の壁から暗幕へと切り替わるカメラワークの妙には感心させられました。ラストは好みが別れるかもしれませんが、クレオという女性の”軽さ”を素直に描いているので私はよかったと思います。ちょっとおしゃれなフランス映画を観たいときにおすすめです。

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