2016年 アメリカ
あらすじ
ボストンで便利屋として独り働くリー・チャンドラー。家の修繕、雪かき、ゴミ捨てを繰り返す毎日。そんなリーの元へ故郷マンチェスターの病院から電話が入る。兄のジョーが亡くなったのだ。ジョーは鬱血性心不全で余命が5~10年と診断されていた。目立った症状がないまま進行し、やがて死が訪れる病気だった。そして遂にそのときが訪れたのだ。
知らせを受け、リーはずっと避けていた雪解け間近の故郷を訪れた。そして、残された一人息子のパトリックにジョーの死を告げる。最後に見た時、まだ幼かったパトリックは高校生になっていた。

ジョーの遺言を弁護士から知らされたリーは動揺した。ジョーはリーが故郷に戻ってくることを前提として、彼をパトリックの後見人に指名していたのだ。リーは強く抵抗した。故郷に帰れない理由があったのだ。
かつてリーも故郷で妻と3人の子供と暮らしていた。しかしまだ若かったリーは、ドラッグや酒をやりながら仲間たちと馬鹿騒ぎをする生活を止められなかった。ある日、いつものように馬鹿騒ぎをした後、火の不始末で火事を起こしてしまい3人の子供を焼死させてしまった。なんとか逃げ出した妻からは激しく罵倒された。取り返しのつかない過ちを犯したリーは故郷を去ったのだった。
ジョーはパトリックにボストンに引っ越すよう提案するが拒絶される。ジョーも故郷に戻るつもりはない。しかしながら世話になったジョーの忘れ形見を見捨てるわけにもいかない。雪解けが始まり春が訪れる前に、リーは打開策を見つけることができるのだろうか。

感想・コメント
マンチェスター・バイ・ザ・シー(略称マンチェスター)は、アメリカのマサチューセッツ州にある町の名で、サッカーチームなどで有名なイングランドのそれではない。アメリカにはニューハンプシャー州にもマンチェスターという地名があるようだ。
リーは家族を焼死させたにもかかわらず、失火の法的責任を問われず無罪放免となった。それが彼をさらに苦しめることになった。もちろん、刑期を終えたからといって自分の子供の命を奪った罪が赦されるわけではない。しかし、何ら罪に問われなかったことで禊の機会を失った彼は、永遠に故郷の人々から非難の目を向けられることになってしまった。
兄のジョーは、故郷に戻ってくるのがリーのためだと思い、一人息子のパトリックを託そうと考えたのだろうが、リーの心の傷は深く生涯癒えるものではなかった。美しい故郷の風景すらも、その傷の痛みを思い出させるだけなのだった。

真の意味で「取り返しのつかないこと」はすべての人が経験するものではない。不運にもそれを経験してしまった人は、生涯その十字架を背負うことになるのだ。
途中、NGなのかアドリブなのか、はたまた意図的なものなのか分からないシーンが散見される。筋書き上は不要だが、リアリティの醸成という意味では、そういう方法もありなのかもしれない。一人の男の苦悩を静かに描いた良作。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。