バスコのLIFE GOES ON!

人生は40代からが楽しい!そう思える生き方を目指しています。

俺は気が済むまで事件を手放さない。それが刑事だ。 特捜部Q 〜檻の中の女〜

 

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2013年 デンマーク

あらすじ

(プロットを一部アレンジ)

~ミレーデが目を覚ますと、そこは真っ暗なタンクだった。スピーカーから男の声で「2barに加圧する、1年後にまた会おう」と一方的に宣告される。地獄の日々が始まった。彼女はなぜそのような仕打ちをうけなければならないのか見当もつかないまま、生き延びるためにただ暗闇と孤独に耐えるしかなかった。~

 

 ……コペンハーゲン警察の殺人課の刑事カールは相棒の言葉に耳を貸さず応援を待たず犯人の家に突入し、待ち伏せしていた犯人に銃で撃たれてしまった。

 

 3ヶ月後に復職したカールは迷宮入りした事件を検証する特捜部Qへ異動を命じられた。書類庫でカビ臭い書類を繰るだけの閑職だった。同僚は同時期に異動してきたアラブ系のアサドという名の男だけだった。腐るカールの前にアサドがファイルを持ってきた。それはフェリーから飛び降り自殺したミレーデという女性議員の事件の記録だった。カールは、担当刑事がミレーデの失踪をフェリーから海上に身を投げたという安易な推測で片付けていたことが気に入らなかった。妥協できないカールは上司に無断でアサドを誘って再捜査を始めた。

 ミレーデは、幼い時に交通事故で両親を亡くし、家族はウフェという解離性障害を抱える弟だけだった。証言によると失踪時にミレーデと一緒にフェリーに乗船していたらしい。話を聞こうとするが、誰にも心を開かないウフェが口を開くことはなかった。カールは早々に見切りをつけたがアサドはその後も足繁くウフェに会いに施設に通った。

 やがてミレーデが事件の1ヶ月前にスウェーデンで開催された会議で知り合った男性と一夜をともにしたという情報を掴んだ。その頃アサドの努力が結実し、ウフェは彼に心を開き始めていた。アサドが会議の出席者が映った写真をウフェに見せると、1人の男に激しく反応した。

 出席者リストによると、ウフェが反応したのはバイオ・ダイナミクス社のダニエルという男だった。カールとアサドはダニエルに会いに行くが、彼はミレーデの失踪後、溺死していた。”ダニエル”を名乗っていた写真の男はダニエルと同じ孤児院で育ったラーセという名の男だった。ラーセは幼い時の交通事故で父親と妹を失い、母親は障害者になっていた。

 カールとアサドはラーセの情報を得るため彼の母親の家を訪れた。そこには期せずしてラーセ本人もいた。事情を尋ねるために任意同行を求めるが、ラーセは突然アサドを刺すと逃亡した。後を追ったカールは納屋の隠し部屋にミレーデが監禁されている巨大なタンクを発見した。

 ラーセはなぜミレーデを誘拐・監禁したのか。ラストシーンでその謎が明かされる。

感想・コメント 

 迷宮入り事件を担当する部署をモチーフとする作品はいくつかあり、目新しいものではない。作風としては映画と長編テレビドラマの境界線上にあるが、これも刑事物によくあるパターンだ(それだけテレビドラマが映画的になったということだろう)。

 ミレーデの監禁シーンとカール達の捜査シーンが交互に描かれるが、時系列が判然としないため、やや理解しにくいというのが正直な感想だ。ストーリーも奇をてらったものではなく、刑事たちが細い糸な手がかりを追う道程を観客が追体験するという構成となっており、主人公のカールの職人気質な個性とよくマッチしている。
 ラストにラーセがなぜこのような猟奇的な事件を企てたのか、その理由が明らかにされる。伏線らしい伏線は特に前置されていなかったが、加害者と被害者の立場が大逆転する展開には感心した。

 ところでデンマークという国は地味な印象があったが、実際には2014年の国連世界幸福度報告では幸福度第1位、欧州においてもっともデジタル化された国とのことだ。世界には我が国よりも先進的な社会があることを知るべきだと反省した。
 ハードボイルド系の刑事ものの王道パターンが好きな方に特におすすめ。

 

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時空が交錯する複雑な世界で迷子になってみませんか?監督と一緒に…… TENET(テネット)

 

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2020年 アメリカ、イギリス

あらすじ

(この物語の主人公には名前が与えられていないので、”男”とする。)

 キエフ国立オペラハウスが開演の瞬間を迎えたそのときテロリストがなだれ込み、瞬く間に占拠した。現場に武装警察官が急行してきた。その中に紛れ込み、謎の部隊がオペラハウスに突入した。その中に”男”もいた。彼らの目的はテロリストではなく、テロリストのターゲットとなっていた重要人物の救出だった。その重要人物は変わった形状のパーツを持っていた。”男”は無事重要人物の救出に成功したが、自らは捕らえられ拷問された。”男”は秘密を守るため毒薬を飲み込んだ。

 しかし”男”は死ななかった。洋上の船で目を覚ました”男”は、見知らぬ男に「君はテストに合格した」と告げられた。”男”は陸に上がると命じられるままに研究所へ向かった。そこで待っていた女性研究者から”男”の使命は第三次世界大戦を止めることだと告げられた。彼女によれば、世界は核によって滅ぶのではない、未来の誰かが作った時間を逆行させるマシンで滅ぶのだというのだ。信じられない”男”に彼女は銃弾が撃ち込まれた1枚の壁を見せた。”男”が銃を向けると、壁に撃ち込まれた弾が”男”の構える銃に逆戻りした。それが証拠だった。”男”は手がかりを掴むためその弾の出所であるインドのムンバイに向かった。

 ”男”は組織から派遣されたニールという男の協力のもと、現地で武器取引を牛耳っているプリアと接触した。”男”が時をどうやって逆行する弾を作ったのか尋ねると、プリアは未来と現在の仲介役をしている武器商人のセイターなら知っているはずだと答えた。

 セイターはソ連の閉鎖都市(各施設などがあるため地図に載っていない都市)スタルスク12の出身だった。セイターはプルトニウムで財を成し、今はイギリスの上流階級の娘キャットと結婚しロンドンに住んでいた。

 ”男”はキャットをツテにセイターと接触することにした。協力者の情報によれば、美術鑑定士のキャットは婚前セイターに贋作を売っていた。その弱みにつけ込むことにした。キャットと接触することに成功した”男”は、彼女から意外な事実を聞かされた。セイターはキャットから贋作を売りつけられたことをとうの昔に見破っていて、それをネタに彼女の人生はセイターに支配されているというのだ。”男”はせいたーからその絵を奪ってやる代わりにセイターに会わせるよう取引を持ちかけた。

 件の絵はオスロ空港に隣接する美術品倉庫に保管されていた。”男”はニールとともに飛行機を倉庫に激突させて火災を起こし、防火設備が作動した混乱に乗じて絵を奪うことにした。しかし、突然倉庫内の回転ドアから現れた武装した男の襲撃に遭い、作戦は失敗した。

 再び”男”はプレアと接触した。そして彼女から、セイターはオペラハウスで”男”のCIAの仲間からプルトニウム241を奪おうとしたが失敗した、そのプルトニウムは現在ウクライナ保安庁の手に渡っている、その奪還をセイターに持ちかけ、彼の計画を掴むよう指示された。

 ”男”はキャットに絵は始末したと嘘をつき、セイターと面会の機会を作らせた。セイターは最初は”男”が妻の不倫相手だと勘繰っていたが、”男”がオペラハウスとつぶやくと顔色が変わった。翌日、セイターの船に呼び出された”男”は、彼にプルトニウム241の奪回に手を貸してほしいと申し入れたが、逆にそれを奪回して持ってこいと脅迫された。

 ”男”はニール達と作戦をたてた。高速道路を走行するプルトニウム輸送車両の周りを大型車で取り囲み、身動きできないようにした上で、奪回するという作戦だった。作戦はうまくいった、ように思えたが、時を逆行して走行する車両が現れた。その車両の後部座席にはキャットに銃を突きつけたセイターが乗っていた。”男”はキャットの命を救うため、やむを得ずプルトニウム241が入ったケースをセイターに渡した。その直後、セイターの手下と銃撃戦が始まり”男”は捕らえられてしまった。

 気がつくと、男は倉庫のような場所で拘束されていた。ガラス張りの壁の向こうにセイターに銃を突きつけられたキャットがいた。そして”男”はケースの中身をどこに隠したのか問い詰められた。”男”がセイターに渡したのは空のケースだったのだ。”男”が口澱んでいるとセイターは迷いなくキャットの腹部を撃った。男はたまらず車のグローブボックスの中だと白状した。そのとき、ニールとプレアの私設部隊が”男”の救出のため突入してきた。

 ”男”は作戦が筒抜けだったのはニールが通じていたせいではないかと疑った。しかし、それは誤解だった。セイターは、チームを2つに分け、1つは時間が正常に流れる世界に、もう1つは逆行して流れる世界に配置し、いわば時間空間で「挟み撃ち」する作戦をとっていたのだ。

 キャットは重傷でこのままでは間もなく命を失う状態だった。アイブス部隊長は時を逆行させれば助かるかもしれないが、戻れなくなるかもしれないと難色を示した。”男”はアイブスを説得し、その場にあった時を逆行させるための回転ドアに入った。回転ドアの向こうでは時が逆行していた。”男”がプルトニウム241をセイターの手に渡らないよう確保するために外に出ると言うと、隊員からいくつかの注意点の説明があった。①逆行中は外気が肺を通らないので酸素ボンベが必要なこと、②過去の自分に直接接触すれば対消滅すること、③摩擦係数などが全て逆転しているので車の運転は避けることなど。

 建物の外に出ると、全てが逆行していた。音すらも逆再生したように聞こえた。現場に向かうために車に乗るが思うように運転できなかった。途中セイターの無線を傍受した。セイターは手下に「爆心地にアルゴリズムを運べ」と怒鳴っていた。アルゴリズム?”男”はなんとかセイターにケースを渡したその瞬間まで戻ったが、セイターの方が一枚上手だった。”男”は動きを読んでいたセイターに車を横転させられた上に火をつけられてしまった。

 気がつくと”男”は、ストレッチャーの上に寝ていた。傍らにはニールがいた。逆行した世界では火に包まれると火傷ではなく低体温症になるらしい。”男”はニールにプレアをオスロに呼び出せと要求した。

 プレアと接触した”男”は彼女から真の目的を聞き出した。”男”がセイターから奪おうとしていたのはプルトニウムではなくアルゴリズムだった。それは未来の科学者が作り出したもので、世界のあらゆるものの時を逆行させることができるものだった。その科学者は自分の生み出したものに怯え、そのマシンを9つに分割し、管理が厳重な核施設に隠したのちに自殺してしまった。セイターがコンタクトを取っている未来の組織は、”祖父殺しのパラドックス”(祖先を殺した場合、その子孫は存在しうるのかというパラドックス)を無視して祖先がどうなろうと自分たちの存在は普遍であると信じているが、プレアの雇い主である未来の組織は異なる考えをもっているというのだ。そしてもう一つ、プレアたちの組織の狙いは、”男”がセイターの手に「プルトニウム」が渡らないよう阻止することではなく、セイターが”男”から「プルトニウム」を奪いマシンを完成させ、それを移動させるときに乗じて奪回することが目的だったことを知らされた。”男”は囮だったのだ。

 マシンがある場所は、セイターの故郷である閉鎖都市スタルスク12だった。捨てられた無人都市を舞台にセイターの率いる部隊と”男”やニールが加わったプレアの率いる部隊との戦いが始まった……。

 

感想・コメント 

 時間軸の魔術師クリストファー・ノーラン監督作品。評価は大きく分かれるだろう。多分、劇場で観ても理解できず、観賞後は「戦闘シーンとかすごかったね」という感想は口にするものの、それ以上話は弾まない、そんな作品だ(デート向きではないことは確かだ)。批判を承知で言えば、私はこの作品は「よくない」と思う。劇場で公開する映画でここまで観客を置いておきぼりにするのがいただけないし、パラドックスや時間軸の逆行を扱っている故に数々の矛盾があって観賞後の爽快感がないからだ。ノーラン監督も着想時はいけると踏んだのだろうが、シナリオを練っていくうちに何となく物語自体に大きな矛盾をいくつも内包してしまっていることに気づいたのではないだろうか。だから、途中で過去の自分と直接接触すると対消滅するなどと脇役に説明させながら、実は劇中で逆行中の”男”が過去の”男”と取っ組み合いをしてしまうシーンを成立させるために「防護服」等という都合の良いものを登場させたりしている。なんといっても、時を逆行させるマシン(回転ドア)がこの世に存在している限り、何度でも過去を書き換えることができるため、この物語の結末さえ無限数のマルチエンディング(つまりパラレルワールド)の一つにすぎないのだ。内容を理解するために何度も巻き戻しながら鑑賞したが、アクションなどは、お金がかかったハリウッドクオリティで普通に楽しめたものの、総括すれば疲れただけだった。

 ちなみに私はノーラン監督は好きです。

 

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モノクロ世界では血溜まりは漆黒の闇 静かなる叫び

 

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2009年 カナダ

あらすじ

 モントリオール理工科大学で1989年に起きた実際の事件をモチーフにした作品。

 

 女子学生のヴァレリーはエンジニアになることが夢だったが、まだ男性社会だった当時は、その実現のために偏見という大きな障害と闘わなければならなかった。

 

 学校はいつものとおり学生たちの活気で溢れていた。誰もまだ、一人の男によって生涯忘れられない恐怖を味わうことになると知る由もなかった。

 

 その頃、ある男が長年の計画を実行しようとしていた。その男は、フェミニストを憎んでいた。女性の特権を手放すことなく男性の権利を侵食するフェミニストのせいで自分の人生は失敗したと信じていた。その報復として女子大学生を無差別に殺害した後に自殺するつもりだった。

 

 大学に侵入した男はヴァレリーが出席していた教室に押し入ると銃を構えた。理由があってその教室を選んだわけではなかった。男は男子学生を教室から追い出すと、女子学生を部屋の片隅に集めた。ヴァレリーの友人の男子学生ジャンは教室から出ると、事件発生を知らせるために警備室へ急行した。

 

 ヴァレリー達を置いて教室を出てしまったことに良心の呵責を覚えたジャンはきびすを返して教室へ戻った。その間、男は校内を歩き回り女子学生だけを狙って発砲し続けていた。銃声が鳴り響く中、学生たちは叫びながら逃げ惑っていた。まさに地獄絵図だった。教室に戻ったジャンは恐ろしい光景を目の当たりにした。女子学生が全員処刑されていたのだ。その中にはヴァレリーもいた。

 

 やがて男の凶行は終わりを迎えた。乱射した銃を咥えると自ら引き金を引いたのだ。

 

 数年後、ヴァレリーは航空工学の世界で活躍していた。彼女は奇跡的に足を負傷しながらも助かったのだ。ジャンが教室に戻ってきた時、彼女は恐怖に怯えながら死んだふりをしていたのだ。気丈に振る舞っていたものの、彼女の心の傷が癒えることはなく、繰り返しあの時の恐怖が蘇ってきて眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 ジャンもあの事件に人生を狂わされてしまった。彼はあの事件を止めることができなかった不甲斐なさを悔やみ続け、ついに自殺してしまったのだ。

 

 

感想・コメント 

 一つの考えに執着する。次第にその考えが正しいように思えてくる。ときにその考えの誤謬や矛盾に気付きかけてもそれを無視するようになる。やがて、それは信念へと昇華する。知らぬうちに、その信念に自我が支配されてしまう。口にするたびに主張は先鋭化し、立場を異とする人々たちとの間に強烈なハレーションが生じてしまう。

 犯人の男の凶行が正当化される理由は何一つない。しかし、彼が凶行に及んだ理由がフェミニズム運動家の攻撃的な主張への反感だったとしたら、学ぶことが一つだけある。攻撃的な主張は、それを受け止めた人の心を刺激し、胸の内に眠っていた凶暴性を覚醒させるおそれがあるということだ。

 雪は白く血は漆黒に描くためにモノクロ映像、上下反転のカメラワークなど、映像表現に工夫が感じされる。残念なのはそれらの演出がやや上品すぎて、本来描くべき怒りや苦悩を表現しきれていない点だ。
 シナリオも犯人の人物像を深掘りしていないなどの物足りなさがある。しかしこの点は、ドキュメンタリーである以上、情報が不足しているからといって都合よく脚色するようなことはしないという制作者の信念ゆえかも知れない。

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Art Goes On 顔たち、ところどころ

 

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2018年 フランス

あらすじ

 映画監督のアニエス・ヴァルダとストリートアーティストJRのコラボ作品。

 フランスを旅しながら、JRが人々の写真を壁画のように貼り付ける「ペースティング」作品を制作する様子をフィルムに収める。

https://art-sheep.com/wp-content/uploads/2014/10/44-yatzer-Artist-JR-turns-the-Pantheon-in-Paris-INSIDE-OUT-e1413550319645.jpg

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JRの作品
www.jr-art.net

 取り壊し間近の坑夫住宅、農家の納屋の壁、建築中に放棄された村の朽ちた建物……そこで偶然出会った人々たちの写真を撮り、拡大印刷し、貼り付けていく。

 アニエスは老人思いのJRの優しさに好感を持っていたが、彼がトレードマークでもあるサングラスをカメラの前で撮らないことだけは許せなかった。

 2人の旅の終着点は、かつてアニエスと親交があったゴダールの住まいだった。しかしゴダールはアニエスが訪ねてくることを知りながら、敢えて家を空けていた。人生で顔を合わせる最後の機会かもしれないのに袖にされたことに傷つくアニエスを慰めるように、JRはサングラスを外し、アニエスが見たがっていた彼の素顔をプレゼントするのだった。

 

感想・コメント 

 ドキュメンタリータッチの旅行記。アニエスは「5時から7時までのクレオ」などを生み出した「ヌーベルバーグの祖母」などと呼ばれている著名な監督だ。

 

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 一方のJRは新進気鋭のストリートアーティストだ。JRの作品はそのスケールゆえにかなりのインパクトがある。個人的には昔のベネトンの広告に近いテイストを感じた。現代芸術は、とにかくいかに他人と違った奇抜な表現方法を創造するかが勝負だが、JRのそれは一般人にも分かりやすくていい。発想自体は、仏像などの巨像と同じで、巨大なものには無条件で感動するという人間の本能を利用したものだから、分かりやすいのは当然だ。

 旅の先々でJRが作品を作り出す様子を描くのだが、アニエスが積極的にカメラワークなどの演出方法について指図しているシーンがないこともあり、存在意義がよく分からなかった。意地悪な見方をすれば、JRのプロモーションフィルムに箔をつけるためにアニエスが利用されたようにも感じた。

 ストーリーがあるわけではない、純粋なドキュメンタリーというわけでもない、ちょっと不思議な作品だ。JRというアーティストに興味がある方は、その制作の裏側を見ることができるので是非。

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なんとなく大丈夫な気がする。だって私だから。 5時から7時までのクレオ

 

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1962年 フランス、イタリア

あらすじ

 売れっ子歌手のクレオは憂鬱だった。腹部の具合が悪く2日前に血液検査を受けていたのだが、彼女は自分がガンではないかと予感していた。今日の夜、主治医に電話で結果を聞くことにしていたが、死ぬのではないかという不吉な予感と杞憂に終わるのではという淡い期待との間で心が揺れ動いていた。帽子屋でショッピングを楽しんでいるうちは少し気が晴れたが、それも束の間、また悲観的な考えが彼女を支配した。多忙を理由になかなか会いにきてくれない恋人にも、お抱えの作詞家や作曲家に悩みを打ち明ける気にはなれなかった。

 気晴らしに一人外出したクレオは友人のドロテに会いに行った。ドロテに包み隠さず悩みを話すことができたクレオはまた少し気を紛らすことができたが、医師に検査結果を聞く時間が近づくとまた不安に襲われ始めた。ドロテと別れて公園を散策しているとアントワヌという名の男が声をかけてきた。最初は胡散臭いナンパだと相手にしなかったが、人好きのするアントワヌにやがて心を許し始めたクレオは、初対面の彼に悩みを打ち明けた。くよくよ悩んでいるよりも早く結果を知るべきだとアントワヌに勧められ、彼の付き添いで夜を待たずに病院へ向かった。なんと、医師はクレオとの約束も忘れて早々に帰路に着こうとしていた。そして彼女の気持ちなどおもんばかった様子もなく、「ガンだけど、治療すれば治る」とあっさりと告知して立ち去ってしまった。

 不治の病であるガンの宣告を受けたクレオは、しかしそれほど落ち込んでいなかった。その時の彼女と言ったら、アントワヌとの間に芽生え始めた恋にすっかり気が向いていたのだ。

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感想・コメント 

 女流監督アニエス・ヴァルダの作品。

 舞台は60年代なので、今よりもガンという病気が死の宣告に等しい時代だった。若く歌手として華やかな人生を謳歌していたクレオが抱いた、ガンになってしまったら一巻の終わりという絶望感は想像に難くない。しかし人間というものは、正常化バイアスが働きがちな生き物だ(だから生きていける)。クレオの心も現実と願望との間で揺れ動く。その様子がうまく描かれている。冒頭の占い師の部屋の廊下に順番を待つ客達を通じて人気占い師であることを匂わせるシャレードの効果的な使い方、部屋で歌うクレオの背景がいつの間にか純白の壁から暗幕へと切り替わるカメラワークの妙には感心させられた。ラストは好みが別れるかもしれないが、クレオという女性の”軽さ”を素直に描いたと観れば違和感はない。ちょっとおしゃれなフランス映画を観たいときにおすすめ。

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70年代に産み落とされた狂気じみたカルトの傑作 時計じかけのオレンジ

 

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1971年 イギリス、アメリ

あらすじ

 アレックスは仲間とつるんで勝手次第に振る舞う手のつけられない“ワル“だ。

 ホームレスを袋叩きにし、他のグループに喧嘩を売る。ある夜の極め付けは文筆家の家に押し入り、彼の目の前で妻を犯すという鬼畜の所業だった。

 アレックスの自宅は、彼の地位に相応しくない寂れた市営住宅だった。同居している両親はアレックスを恐れ距離を置いていた。アレックスのお気に入りはベートヴェンだった。学校をサボって大音量でベートヴェンを聴くのが好きだった。

 ある日、仲間たちがアレックスの自宅までやってきた。彼らがリーダー気取りのアレックスの暮らしぶりをバカにしているのが見え見えだった。仲間の1人が今後は自分がチームを仕切ると言い出しはじめた。アレックスは力でねじ伏せた。多少の波乱はあったが、結局は元通りになった。と思っていたのはアレックスだけだった。手下だと思っていた仲間に裏切られ、家宅侵入の現行犯で逮捕されてしまった。

 アレックスは懲役14年の刑に処せられた。2年間は監獄で大人しく服役していたが、改心するはずはなく、ずっと刑務所から出る方法を探していた。そんなアレックスにチャンスが到来した。政権交代したばかりの政府が有権者の人気取りのために、犯罪者を善人にするという画期的な治療法を採用することにしたのだ。ルドビコ式心理療法と呼ばれるその治療法の治験者になれば、すぐにでも釈放されると聞きつけたアレックスはその第一号に志願した。

 それからアレックスの地獄のような日々が始まった。ルドビコ式心理療法とは、毎日2回レイプなどの犯罪映画を強制的に見続させられるというものだった。強制的に見せるために、体を拘束されるばかりではなく、目も閉じられないように拘束されるという徹底ぶりだった。そしてその映像の背景音には事もあろうにアレックスが大好きなベートヴェンの曲が使われていた。やがてアレックスはベートヴェンの音楽を聴くと吐き気を抑えられない体になった。アレックスが「もう犯罪は悪いことだと分かった」と訴えても、プログラムは繰り返された。

 やがてルドビコ式心理療法の成果を発表する日がやってきた。アレックスはあらゆる挑発に全く反応しなかった。それを見て新体制の内務大臣は誇らしげに成果をアピールした。

 アレックスは解放された。自宅へ帰るとアレックスの部屋には見知らぬ男が住んでいた。両親が間貸ししたのだ。アレックスが改心したと訴えても両親の彼への畏怖を打ち消すことができなかった。家を出て行くあてもなく彷徨っていると警官に取り押さえられた。なんとその警官はかつて一緒につるんでいた仲間だった。すっかり腑抜けになったアレックスは、彼らに山奥まで連れ去られると、暴行を加えられ置き去りにされた。

 満身創痍のアレックスが息も絶え絶えでたどり着いたのは、皮肉にもかつて自分が鬼畜の所業をしたあの文筆家の家だった。文筆家はそのときの暴行で下半身付随になり、妻は自殺していた。最初のうちはアレックスに同情していた文筆家だったが、ふとしたきっかけでアレックスこそ憎むべき犯人であると気づいた。彼は迷わず反体制派の同志にアレックスを引き渡した。

 アレックスがどこか見知らぬ家で目覚めると、下階からベートーヴェンの第九が大音量で鳴り響き出した。文筆家と反体制派の同志のたくらみだった。文筆家はアレックスに復讐するために、同志はアレックスを利用して政府が推し進めるルゴビコ式心理療法がインチキだと言うことを訴えるために協力したのだ。アレックスの精神はたちまち崩壊した。錯乱した彼は、たまらず窓から飛び降りた。

 しかしアレックスはひどい骨折をしたものの絶命しなかった。全身包帯だらけでベッドに横たわる彼の元に内務大臣がやってきた。アレックスの事故は非人道的な犯罪矯正によるものだと政府に非難が集中していた。反体制派の思惑どおりだった。内務大臣はアレックスを懐柔するためにありとあらゆる便宜を図った。反社会的存在のアレックスが一転して国家権力の犠牲者に祭り上げられることになった。

 甘やかされ放題のアレックスに、生まれつきの悪人としての本性がむくむくと蘇ってくるのにそう時間はかかるはずもなかった。

感想・コメント 

 タイトルもアートワークも有名な一作。最初は意味不明なスラングやセットだらけで戸惑うかもしれないが、作中の世界観に観客をシンクロさせるための演出と割り切って聞き流しても問題ない(ここでよく理解しようとすると疲れてしまう)。

 人類史上、最悪の人格改造の科学に挙げられるのはロボトミー手術(開頭して前頭葉の一部を切除する荒技)だろう。今作はそういった外科的措置ではなく、”洗脳”による人格改造をモチーフにしている。洗脳では人間の本性までを変えることはできないという、分かりきった事実がオチだとガッカリする向きもあるかもしれない。しかし、私はこの作品が描きたかったのは、その反面にある”悪人は絶対に更生も改悛もできない”というダークな事実、そしていつの時代も繰り返されるポピュリズム政治の茶番の滑稽さだと思った。カルト臭がするが、丁寧に計算された演出などがB級カルトと一線を画している。ムカつくラストではあるが映画史上に残る作品に間違いない。必見。

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「後先など考えずに勢いに身を任せる快感」を味わってみたくありませんか LIFE!

 

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2013年 アメリ

あらすじ

 ウォルターはグラフ雑誌「LIFE」のベテラン写真整理係だ。彼は同じ社にいるシェリルに密かに恋心を抱いていたが、時折言葉を交わすことが精一杯で告白する勇気などなかった。彼の生活は会社と家とを往復するだけの孤独で地味なものだった。

 そんなウォルターに大波が襲いかかってきた。ネットの普及とともに発行部数が低迷していたLIFE誌が、新しい経営陣によって直ちに廃刊されることになったのだ。落ち込む彼のところへ、ベテランカメラマンのショーンから贈り物が届いた。その中にはLIFE誌廃刊を悔やむメッセージとともにネガと財布が入っていた。ショーンによれば、そのネガの一コマがLIFE誌の最終号の表紙を飾る写真だと言うのだが、その肝心な一コマが欠けていた。ウォルターは新しく赴任してきた責任者から、そのネガを提出するよう命じられた。しかし、どこを探してもなぜかその一コマだけが無かった。

 ショーンに尋ねようにも、彼は年中世界を飛び回っていて電話も持っていないので尋ねようがない。ウォルターがシェリルに密かに打ち明けると、彼女が経理の同僚にショーンが指定したギャラの支払先を聞いてあげると請け合ってくれた。うまくいけば、ショーンの足取りが追えるはずだと。

 まもなくシェリルからショーンはグリーンランドにいるらしいとの情報が寄せられた。それを聞いたウォルターは自分でも意外な行動に出た。通勤カバンを手に職場を出ると、そのまま飛行機に飛び乗ったのだ。翌日、グリーンランドの地に降り立った彼は、彼が立ち寄ったとされるバーに向かった。そこが彼の大冒険の出発点だった。ネガのありかを尋ねるためだけにショーンの足跡を追い、遂にはヒマラヤ登山まで決行した。そしてショーンに会うことができたウォルターだったが、ネガのありかは意外な場所にあった。

 ネガはどこにあったのか。そして、LIFE誌の最終号の表紙を飾るにふさわしいとショーンが送った写真とは。

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感想・コメント 

 若かった頃、まだ遠い国だったアメリカの様々なシーンを見ることができるLIFE誌は、大きな書店の輸入雑誌コーナーに置かれていたお洒落な存在だった(日本にも「アサヒグラフ」等のグラフ誌があった)。過去の栄光だけでは存続できないのは宿命だと分かっていても、一時代を築いた雑誌が無くなってしまうのは寂しいものだ。銀塩写真など、カセットテープやフロッピーディスクと同じくらい最近の若者には全く縁がないだろうから、そもそもネガとは?という説明が必要な時代なのかもしれない。話自体は、自分の殻を突き破る中年男をユーモラスに描いたもので、地味になりがちな内容だ。しかし、そこはLIFE誌というブランドを利用して彩りを添えている辺りがうまいと思う。ただそれゆえに世代を選ぶのかも知れない。LIFE誌を知らない、中年の危機も知らない世代の観客には、どれだけこの作品を楽しめるのだろうか。
 あらすじではかなり端折っているが、いろいろな要素をうまく組み合わせた丁寧な話作りで私は楽しめた。

  最後までお付き合いいただきありがとうございました。 

 AmazonPrime、dTVで鑑賞することができます!(本作品の配信情報は2021年1月10日時点のものです。配信が終了している、または見放題が終了している可能性がございますので、現在の配信状況についてはホームページもしくはアプリをご確認ください。)

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